Suprime-Cam冷凍機運転による振動の計測試験
1998年7月27日 古澤久徳、小宮山裕
測定日時:
1998年7月17日および7月22日
実験の目的と方法:
レーザ変位計LT8110(キーエンス)により、マザープレートの基準位置からの移動変位を読み取ることにより、振動の振幅とおおよその周波数を調べ、冷凍機から発生する振動の様子を把握するとともに、その振動値がSuprime-Cam観測の実用に耐えうる範囲内におさまっているかどうかを調べる。
実験手順:
- デュワーを固定し、レーザヘッドをデュワーに対して固定する。
- 冷凍機停止時のレーザ変位計アナログ出力をオシロスコープで表示し、ポラロイドカメラで記録する。
- 冷凍機運転時のレーザ変位計アナログ出力をオシロスコープで表示し、ポラロイドカメラで記録する。
- マザープレート垂直方向と水平方向の2通り行う。
- 短周期(おそらく50Hzと予測)より長い周期の振動があるかどうかを調べる。
- デュワーを筐体にとりつけない状態と、とりつけた状態の2通り行う。
各種データ:
使用備品: レーザ変位計LT8110、オシロスコープ、ポラロイドカメラ
レーザ変位計位置分解能: 2ミクロン以下(10μmがひとつの目安である本測定には十分であると考える)
レーザ変位計サンプリングレート: 1.4kHz以上(50Hz支配が予想される本振動測定には足りるだろう)
レーザ変位計アナログ出力: 4.0 mV / 1μm 固定
実験結果:
以下の実験結果におけるオシロスコープ画面は、全て縦軸の一目盛りが20mV(=5.0μm)である。
1.デュワーをフリーの状態で置いたときの振動の様子
冷凍機停止時
- 縦軸 5.0μm/div、 横軸 20ms/div
- 停止時 rms=3.2μm 、 p-p=20.6μm
- 途中パルスが出ているのは、レーザ反射光のノイズと思われる。変位計の計測は床の振動に敏感であり、実験室を人が出入りすると、このベースラインは影響を受けるため、十分時間を置いてrmsが4mV程度になるのを待った。

冷凍機運転時
1.マザープレート垂直方向短周期成分(左)、マザープレート垂直方向長周期成分(右)
- 縦軸 5.0μm/div、横軸 10ms/div(左) 、5.0s/div(右)
- 垂直 rms=3.5μm、p-p=27.5μm
- 短周期は冷凍機のサイクルそのものである50Hz成分が支配的。長周期には数十秒周期のうなりのような変動が見られた。これは、左右2基の冷凍機のサイクルが精密に50Hzでないことによる影響かもしれない。左のプロットで一個所飛び出ているのは、レーザ反射光のノイズを拾っている可能性が高い。

2.マザープレート水平方向(アルミ板中間部)
- 縦軸 5.0μm/div、横軸 20ms/div
- 水平 rms=5.4μm、p-p=28.1μm
- 水平方向の測定には、マザープレートに垂直に立てたアルミ板に対してレーザを当てて、測定した。アルミ板のしなりによって、振幅を過剰に測定しているかもしれないため、デュワー筐体装着時には、アルミ板の上下2個所で測定した。

2.デュワーを筐体に固定した時の振動の様子
冷凍機停止時
- 縦軸 5.0μm/div、横軸 10ms/div
- 停止時 rms=1.2μm 、 p-p=10.6μm
- 17日測定時には、冷凍機停止時にも約40Hzの±5μm程度の振動が見られた。これは、床からの振動が台座、筐体、シャッター部の固有振動(〜40Hz?)を励起したためではないかと考えた。そこで、22日の測定では、台座やシャッター部などの連結したコンポーネントから分離して床の上に置いた台上にレーザヘッドを固定する事でこの問題を回避した。
- 冷凍機停止時の安定したベースラインがなかなか定まらなかったが、レーザ光強度の安定した一瞬をねらって測定したので、結果は信頼できる。

冷凍機運転時
1.マザープレート垂直方向短周期成分(左)、マザープレート垂直方向長周期成分(右)
- 縦軸 5.0μm/div、横軸 10ms/div(左)、5s/div(右)
- 垂直 rms=1.8μm 、 p-p=11.8μm(左)
- 短周期については、フリー状態の時のようには目立たないが、よくみると50Hz成分が分かるが、冷凍機停止時と比べて変位にほとんど差が見られない。
- 停止時のコメントでも述べたとおり、17日の測定では台座とシャッター部の固有振動が混入したため、22日の測定ではこれをとりのぞいている。右の長周期測定は17日のものであり、周期にはシャッター部の固有振動、振幅には、シャッター部の揺れが混入してしまっているため、正確な情報は得られない。


2.マザープレート水平方向(アルミ板中間部)(左)、
マザープレート水平方向(アルミ板下部)(右)
- 縦軸 5.0μm/div、横軸 10ms/div(左右とも)
- 中間部 rms=2.1μm 、 p-p=13.1μm(左)
- 下部 rms=2.2 μm、 p-p=6.9 μm(右)
- マザープレートに垂直に立てたアルミ板の中間部と下部では、やはり中間部の振幅のほうが大きい。CCD面の振動として現実的な値としては、下部の値を参照すればよいと思われる。


考察:
デュワーをフリーな状態にして行った試験では、peak-to-peakで20μmを超える振幅となり、明らかに観測に耐えない。
しかしデュワーを筐体に固定した状態では、マザープレートに垂直な方向の最大の振れ幅gapeak-to-peakで11.8μm、rmsで1.8μmであり、冷凍機停止時のpeak-to-peak値が10.6μmであることを加味すると、観測に耐えうる値に収まっていると考えられる。例えば、(11.8/2)^2
- (10.6/2)^2
として冷凍機停止時の振幅の寄与を差し引くと、2.6μmが正味の最大振幅となり、これをpeak-to-peakに直すと
5.2μmである。幾分おおざっぱな議論ではあるが、この値ならば、Suprime-Camの観測時の許容範囲内に収まっていると考えてよいであろう。
デュワーを筐体に固定した場合の水平方向の振動についても、最大でrms=2.1μmであり、垂直振動同様、無視できる。CCD面上における2.1μmという値を天球上の角度に換算すると、0.18*2.1/15=0.025arcsecとなり、少なくとも冷凍機の振動の影響が出てくるのは超ベストシーイングの時だけであることが分かる。