シャッター等研磨の改善
シャッターの扉には反りが認められたので新たに同じ形で反りのないものを製作した。
このシャッター扉は寸法的には ± 0.1mm の精度を達成したが、
摩擦面の粗さはそれほどの改善は見られなかった。
位置センサの変更
Suprime-Cam の場合、シャッターに使える厚みが限られているため、
大きなセンサーは構造上使用できない。具体的には
センサーの大きさは 13 mm× 16 mm の空間に入る必要がある。
( 前者は厚み、後者は ( ベルト間の距離 - 2 mm )
概念図は FDR 3.6.1 図参照)
FDR 時の課題であった「光を放射しない」という条件を満たし、
この大きさに入るものは、
各社のカタログを検討した結果、電器容量型しかなく、
かつ、これらも「動作表示灯」が付いて光を発する。
検討の結果、SANX 社製の GXL-8F 型を採用した。
このセンサーは発光部をオペイクで塗りつぶす、又は
発光部に黒いプラスチックを埋める等で発光を封じる事が可能である。
検出距離は Fe に対して 2.5mm ± 20 % (カタログ値) である。
プロトタイプ(改)では検出体として Al を用いたので、
実際の検出距離は 1mm - 0.7mm ( 実験値 ) と、やや短い。
モータの変更
モータを PK244-01A から PK266-02A に変更した。
(ともにオリエンタルモータ社製)
これに伴い励磁最大静止トルクは 2.6 kgcm から 9 kgcm に上がり、
またパルス速度 1500 Hz 付近でのトルクは約 2kgcm から
6.5kgcm へと増加した。
筺体の強化
筺体の歪みが原因でシャッター扉が不安定に動く、
あるいは全く動かなくなるという現象が見られたため、
シャッター機構の外壁、及び内部に、
可能な限り多くのサポート柱を立て、構造を強化した。
静止位置の誤差
( 以下 2 枚の扉を便宜的に A,B と呼ぶ )
A に関しては 静止位置の誤差は 2 pulse である。
B に関しては 静止位置の誤差は 5 pulse である。
また、開閉間のパルス数は改良前の 510 pulse に対し
460 pulse (A) および 468 pulse (B) となった。
速度の上限値の測定
まずパルス発生機を用いた実験の結果、パルス周波数が
600 - 800 Hz では十分安定して動作、
1000 - 1300 Hz では辛うじて動作可能
1500 Hz では全く動かないという結果を得た。
このパルス周波数がどのように開閉時間と対応するか測定するため、
Messia-III と接続して以下の周波数で動作実験を行なった。
ここで wait とは Messia-III の発生する
パルスの内部ステップ数に相当する。
wait(step) | 周波数(Hz) | 開閉時間 (sec) |
---|---|---|
3000 | 2060 | 動かず |
4000 | 1480 | 動かず |
5000 | 1230 | 0.37 |
6500 | 950 | 0.48 |
8000 | 770 | 0.60 |
静止位置の誤差
プーリーの半径が 1cm で、
1pulse の回転角が 1.8 ° であるので、1pulse は
0.3 mm に相当する。
よって、A に関しては
開時の位置と閉時の位置の間の距離の誤差 0.6 mm は
センサーの検出誤差 2.5 × 0.2 =
0.5 mm を見ているものとしてよい。
B に関しては 1.5 mm で、センサーの誤差以上の変化がある。
これは、B の「外枠にかかる力(歪み)の影響を大きく受け、
頻繁に誤動作する」「プーリーの位置がずれやすく、ベルトの張りが
失われやすい」という構造上の問題のせいであろうと考えられる。
開閉速度の上限値
安定して動作する範囲としては
pulse 数 1000Hz 程度であり、これは改良前と大きな変化がない。
( 開閉間のパルス数が 460/510 〜 0.9 になったので、
開閉時間を前回の結果と比較する際にはこの補正を考える必要が
ある )
このことは研磨の改善は速度上限には大きく影響しなかったことを示唆する。
勿論、時間経過によりレールと扉の平行性の変化が起こった可能性もあり、
必ずしも研磨の改善が全く影響しなかったとは言えない。
半面、前回の実験で速度上限を決定する主要な要因であった
置位置(垂直・水平)は、
今回の実験では筐体の歪みに比べ無視できる程度でしかなかった。
この相違はモータのパワーアップによるものであると考えられる。
その一方で運転速度を低下させることにより安定性が増したことから
回転数に対するトルクが 1200Hz に対しては未だに若干小さ過ぎる事が示唆される。
筺体の歪みについて
サポート柱を入れた結果、同じ周波数のパルスを送った時に
扉が不安定に動くことがなくなり、安定度が増した。
実機ではサポートを増やし、筺体の歪みを減らすことが重要である。
筺体を頑健にしたことで余裕が減り、摩擦も増加したが、
1000 Hz 程度の速度で運用する限り、この摩擦の増加の影響は無視できる。
推定される露出時間限界とその誤差
本プロトタイプ機ではパルス周波数限界は「安定性」の観点から、
950 Hz 程度であり、開閉 pulse 数 460 pulse を仮定すれば,
シャッター開閉 0.5 秒に相当する。
周波数 1500 Hz 付近がこのモータの最大自起動周波数である。
負荷が付いているので自起動周波数は落ちている。
よって、今回の 1000 Hz という上限はモータの限界であると
考えられ、プーリの径を大きくすること以外に解決策はない。
結論として、シャッター開閉 0.5 秒が、
運用可能な開閉時間の下限である。
静止位置精度 2 pulse は位置誤差として 0.4 % に相当し、
950Hz の時の露出時間誤差に換算すると
0.5 秒 × 0.4 % = 0.002 秒 である。
故に、静止位置精度による露出時間誤差は十分無視できる。
短時間露出に関して
短時間露出は標準星撮影で必要とされる。
仮に seeing 0.5 arcsec でも焦点をぼかせば飽和しないようにでき、
あるいは二枚羽を同時に動かせば高速シャッターになる。
ここでは、仮に 0.5 秒で積分した場合
何等の点光源まで測光できるかを、
焦点をぼかす効果についても含め検討する。
具体的には seeing-FWHM 0.5 arcsec のガウシアン PSF の天体を
中心部が非線形領域に入ってしまう光度を概算する。
まず、1 pixel は 0.2 arcsec なので、
中心 1 pixel は 0.53 σ の円内の光で近似できる。
( π(0.5/2.35*0.53)^2=0.2^2 )
この半径内には天体全体の 13 % の光が入る。
L/L_{tot}=(1-exp(0.5(r/σ)^2))
一般に m 等の天体から来る全光子数 n_{sig} は
n_{sig}・ hν = f_0 ・ 10^-0.4m・ε _{atm}・(π )/(4)D^2・ε _{sys}・ t
と書ける (FDR 5.2)
以下バンドは R を仮定し、FDR 5 にある諸定数を用いると上式は
n_{sig} = 1.14 × 10^6 ・ 0.91 ・ 0.55 ・ (π )/(4) (8.2× 10^2)^2
・ 10^-0.4m t
= 3.8 * 10^11 ・ 10^-0.4m t
となる。
更に上で求めた 13 % を乗じ、t=0.5 sec を代入すると
n_{sig} = 2.5 * 10^10 ・ 10^-0.4m
となる。仮に CCD の限界を n_{sig} < 10^5 とすると、
m > 13.5 となる。
つまり、R バンドで シーイング 0.5 arcse では露出 0.5 秒では
13.5 等が限界である。
露出時間が 0.3 秒の場合、変化は 0.5 等で、限界は 13.0 等になる。
光度標準星として明るい方の限界が 13.5 等の場合と
13.0 等の場合とで大きな差があるかどうかは検討が必要であろう。
なお、仮にシーイングを 1 arcsec とした場合
中心 1 pixel は 0.27 σ の円内に相当し
この場合全体の 3.6 % の光が入り、1.4 等変化し、
限界は 12 等になる。