photo-z のシミュレーション

随時更新中です。(2000.1.4)

1. 目的:

Subaru Deep Surveyの広帯域フィルターによる観測に加えて、中帯域フィルター(IBF)10枚(暫定)によるサーベイ観測をどのようなフィルターの組合せで行うのが効果的かを、photometric redshift (photo-z) の 精度の立場から議論する。

2. 手法:

標準的なχ2乗最小化法(テンプレートフィッティング)によるphoto-z決定のシミュレーションを行い、見積もったzの誤差のr.m.s.( σz ) が使用したフィルターセットによってどのように変わるかを見る。


3. テンプレートSED:

今回のテンプレートSEDには、Kodama & Arimoto (1997)の種族合成モデルによるSEDを用いた。SED生成時の設定パラメータをTable 1に示す。

ここで、ディスクは銀河系のディスク、バルジは銀河団の楕円銀河の色をよく再現するパラメータを採用した。 また、Bバンドのフラックスで規格化した同年齢のディスクとバルジで内挿SEDを生成した。

Table 1: テンプレートSEDの生成パラメータ (Kodama & Arimotoモデル)
  IMFのべき 星形成のtime scale      (Gyr) ガスinfallのtime scale      (Gyr) 銀河風の時間 

  (Gyr)

 年齢 (Gyr)
ディスク

(37種類)

    1.35      5.0      5.0     吹かない 0.010, 0.013, 0.016, 0.020, 0.025, 0.032, 0.040, 0.050, 0.063, 0.079, 0.100, 0.126, 0.158, 0.200, 0.251, 0.316, 0.398, 0.501, 0.631, 0.794, 1.0, 1.259, 1.585, 2.0, 3.0, 4.0, 5.0, 6.0, 7.0, 8.0, 9.0, 10.0, 11.0, 12.0, 13.0, 14.0, 15.0
バルジ

(15種類)

    1.10      0.1      0.1      0.353 1.0, 2.0, 3.0, 4.0, 5.0, 6.0, 7.0, 8.0, 9.0, 10.0, 11.0, 12.0, 13.0, 14.0, 15.0
内挿
(Bバンドで規格化)
B/T=0.1,0.2,,,0.9
(9 B/T x 15 Age )
    ...        ...       ...    ...  

1.0, 2.0, 3.0, 4.0, 5.0, 6.0, 7.0, 8.0, 9.0, 10.0, 11.0, 12.0, 13.0, 14.0, 15.0




上記の合計187種類のSEDそれぞれに対して、

※Extinction lawは、Calzetti (1997)による星形成銀河の定式を採用した。
※銀河系的なExtinction lawについても別に今回と同様のシミュレーションを試してみたが、Calzetti's lawの方がより良いphoto-z精度を得たため、以下ではこちらを用いることにする。
※この際、銀河間吸収の光学的厚みは、Madauの値に加えて、その1.5倍と0.5倍の合計3種類の場合についてテンプレートを作成した。

今回のテンプレートSEDを間引いてBバンドで規格化した図がFigure 1である。
また、テンプレートのグリッド数に関するまとめも記す。



         Figure 1: テンプレートSED

template.gif (126625 バイト)     number.gif (7413 バイト)


上記のテンプレートをHDF-Northに適用した時に、良い精度でphoto-zが決まることが分かっている。


4. シミュレーション結果:

観測銀河を想定した入力サンプルとしては、上のテンプレートSEDの中からz=0-7の範囲で1032個を無作為に抽出し、各バンドに対して一律10%のガウシアンノイズ(S/N=10)を加えたものを用いた。

[1]BVRIz 基準となる広帯域のみの場合

※広帯域のコンビネーション

[2]BVRIzJHK 近赤外バンドの効果

[2'] BVRIzJK SDFに相当

[3]UBVRIz Uバンドの効果

[4]UBVRIzJHK Uバンドと近赤外を全て加えた場合

※IBFとのコンビネーション

[5]IBF1-10 + RIz IBFを青い側に集めた場合

[6]IBF6-15 + BIz IBFを中間に集めた場合

[7]IBF11-20 + BVz IBFを赤い側に集めた場合

[8]IBF3-21 (10 filters) IBFを可視全域に散らした場合

※[5]-[7]のIBFを5枚にした場合

[9]IBF1,3,,,9 + RIz IBF青い側 [5]の5枚バージョン

[10]IBF6,8,,,14 + BIz IBF中間 [6]の5枚バージョン

[11]IBF11,13,,19 + BVz IBF赤い側 [7]の5枚バージョン

[12]IBF1,7,11,16,20 + BVRIz 広帯域の間をIBFで埋めるように選んだバージョン

※その他

[13]IBF1-22 (ALL) IBF全22枚バージョン


以下にそれぞれの場合の見積り誤差のr.m.sを示す。各使用バンドの組合せごと、 各redshift binごとに、
| output-z − input-z | < 0.5
となるような銀河の割合(カッコ中の数字)と、それらの銀河に対する見積り誤差のr.m.s (σz)をTable 2に記した。
※z=1.3と3.4という境界の数字は、可視光観測のredshift desertの目安としての値である。


Table 2: 使用バンドの組合せによるphoto-z精度(σz)のまとめ

使用バンド           z= 0.0-7.0        0.0-1.3          1.3-3.4          3.4-7.0 
===================================================================================
※広帯域のコンビネーションについて
[1] BVRIz           0.163 (77.7%)    0.154 (61.5%)    0.238 (55.7%)    0.131 (95.9%)
[2] BVRIzJHK        0.115 (99.0)     0.126 (98.9)     0.147 (98.1)     0.086 (99.6)      
[2']BVRIzJK         0.117 (98.7)     0.126 (98.9)     0.154 (97.1)     0.085 (99.6) 
[3] UBVRIz          0.122 (90.2)     0.126 (78.8)     0.185 (80.6)     0.075 (99.6)
[4] UBVRIzJHK       0.079 (99.6)     0.083 (99.4)     0.111 (99.4)     0.050 (99.8)

※IBFとのコンビネーションについて
[1] BVRIz           0.163 (77.7%)    0.154 (61.5%)    0.238 (55.7%)    0.131 (95.9%)
[5] 1-10,RIz        0.078 (94.7)     0.087 (89.9)     0.127 (88.2)     0.019 (100.0)
[6] B,6-15,Iz       0.076 (90.9)     0.101 (87.2)     0.121 (77.7)     0.018 (99.8)
[7] BV,11-20,z      0.090 (89.4)     0.078 (83.8)     0.148 (75.5)     0.049 (99.4)
[8] 3,5,7,,,21      0.080 (90.4)     0.095 (81.6)     0.133 (79.6)     0.018 (99.6)

※[5]-[7]のIBFを半分に間引いたものに対応
[9] 1,3,,9,RIz      0.089 (90.3)     0.121 (82.1)     0.137 (78.3)     0.034 (100.0)
[10]B,6,8,,14,Iz    0.093 (87.7)     0.087 (75.4)     0.162 (74.2)     0.037 (99.6)
[11]BV,11,13,,19,z  0.107 (86.0)     0.099 (73.7)     0.173 (69.4)     0.065 (99.6)

※その他
[12] IBF1-22 (ALL)  0.043 (95.9)     0.028 (92.2)     0.077 (91.1)     0.006 (100.0)
====================================================================================

5. まとめ:

○広帯域フィルターのコンビネーションについて
Bからzまでの波長帯では、そのベースラインの短さゆえに、z=1-3の範囲の大きなエラーを 押えこむことが困難である。(これは主に、4000A breakが可視域から外れて、かつLyman breakが可視域に入ってこないため)
Uバンドを加えることにより、全redshift binで若干の改善が見られ、z=1-2あたりの大きな エラーがやや押えられることが分かったが、これらのエラーを劇的に減らすことは出来ない。

これに対し、近赤外線バンド(特にKバンド)を加えることでz=1-3あたりのエラーは劇的に 減少する。

○中帯域フィルター(IBF)とのコンビネーションについて

photo-zの精度からは、中帯域フィルターを青い側に集めるのが良さそうである。 ([7] IBF1-10, RIz')

4000A breakやLyman limitなどのスペクトルfeatureの、depressされた方の側(つまり青い側) をたくさんサンプリングした方がフィットが正確になるようである。フラックスの大きい赤い側 は広帯域で大きく押えるのが良いかもしれない。

可視光のみではz=1-3あたりのエラーはどうしても生じるのだが、IBFを青い側に集めた組合せ では、他の組合せよりも大きなエラーが少なくなる。 また、大きなエラーを除いた見積もりのinput-z vs output-zの相関は、IBFを組み合わせた方が 広帯域フィルターのみの場合よりもtightになる。これはおそらくサンプリング数の多さが効く ためであろう。

広帯域とIBF10枚を組み合わせた場合の[5]-[7]について、IBFを間引いて5枚にした場合の精度も調べてみた([9]-[11])。見積り精度が各赤方偏移binとも、IBF10枚の場合に比べてΔz=0.01〜0.02ほど悪くなるが、|Δz|<0.5となる銀河の割合とσzをあわせて見る限り、バンドの組合せによる優劣は逆転していない。 input-z vs output-zの相関図の見た目からは、IBF10枚の場合に比べるとバンド組合せによる差が小さくなっていはいるが、Table 2からは依然として青い側に集めるのが最も良いという結果が得られた。

IBFで多くの波長を観測した場合には、大きなエラーを除いた銀河に対しての精度が広帯域のみよりも 良くなっている。仮に現在計画中のIBF全22枚([12])を用いた場合には、近赤外バンドを含めた時よりも 大きなエラーは多く発生するが、近赤外バンドを含めない他の場合と比べればエラーは抑えられる。また、それら大きなエラーの銀河を除いた精度は、今回調べた全ての場合に比べて最も良い精度を与えることが分かった。


References:
Calzetti, D. 1997, ApJ, 519, 27
Calzetti, D. 1997, uulh.conf., 403
Kodama, T. & Arimoto, N. 1997, A&A, 320, 41
Madau, P. 1995, ApJ, 441, 18




塩谷さん (東北大)によるシミュレーション

furusawa@astron.s.u-tokyo.ac.jp