F702W は R(Suprime) に比べて感度が長波長側に伸びている。 この差異は星や近傍銀河の測光にはあまり影響を及ぼさない (なぜならこの辺りの 波長でスペクトルが滑らかだから) が、4000 A break が見かけ上 6000-7000 A に 来るような遠方銀河の測光には大きな影響を及ぼす。すなわち、F702W のほうが より長波長側に感度を持つ分、4000 A break の長波長側を引っかけてしまい、 見かけ等級をより明るめに見積もる。
この図は、E から Im の銀河に対し、R(Suprime) での等級と F702W での等級の 差を赤方偏移の関数として描いたものである。銀河には進化効果は入れていない。 すなわち、近傍銀河を単に赤方偏移させただけである。 z < 0.5 では銀河毎の R(Suprime)-F702W のばらつきは小さいため、一律な補正で 0.1 等 以下のエラーで等級の変換ができる。 z > 0.5 では銀河毎のばらつきが大きくなる。4000 A break の大きい早期型の銀河ほどやっかいな 振舞いをする。
この図で、Gunn & Stryker stars は銀河系の星、銀河は (2) で使った E - Im 銀河である。 遠方の銀河については、カラーの情報を使っても R(Suprime) と F702W の間の等級の変換は 難しいことがわかる。 なお、星も銀河も >8000 A での SED のデータがないので、low z での R-J は計算できなかった。
R(Suprime) の画像と F702W の画像を重ね合わせて出来た画像は、R(Suprime) と F702W の レスポンスをある重率で足し合わせた仮想的なフィルターで観測した画像と同等である。 この「仮想的フィルター」のレスポンスを正確に知っておかないと、(2), (3) で見たように、 特に遠方銀河の等級の評価の誤差が大きくなる。 仮想的フィルターのレスポンスを作るには両者の重率を知る必要があるが、そのためには ・積分中の R(Suprime) の平均の throughput (フィルター + 望遠鏡 + 大気の透過率) ・HST の throughput (フィルター + 望遠鏡) という、いわば絶対感度を知る必要がある。HST の値はわかるとしても、大気の透過率を含めた Suprime-Cam の平均の throughput を知るのは難しいのではないか。 別法として、もし CL0939 の視野に 5500-8500 A での SED (もしこの範囲で SED が滑らかであれば、 カラーでも間に合うかもしれない) のわかっている天体があれば、それを使って重率を求めることは できるが…