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     ダイキン社製冷凍機の性能試験
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                                                1996.10.23 小宮山 裕
1. はじめに

1.1 必要とされる性能

 Suprime-camはCCDを約-90度に冷却して使用する。しかし約-90度に冷却したとき
Suprime-camには窓からの放射を主成分とする約6Wの熱流入がある。
この熱をデュワーの外に排熱するために冷凍機2台を使用する予定である。
従って冷凍機一台は-90度で3Wの熱を排熱する能力を持っていなければならない。
また、リーズナブルな時間で常温から-90度に冷却できなくてはならない。

2. 実験装置の設定

2.1 実験システム

 実験システムの全体図を以下に示す。

 画面中央にある配管でデュワーにつながっているのが冷凍機の本体である。(本体拡大図)
冷凍機は画面左側のコントローラー、専用電源から電力の供給を受けて動いている。(電源部拡大図)
また動作中は圧縮機、放熱フィンが非常に暑くなるのでファンを回して空冷している。
デュワーは後ろにある真空ポンプで真空引きされており、実験中は常時数10^-6Torrに
保たれている。このデュワーの内部には冷凍機のコールドヘッド部があり、この部分に
銅製の小物体が取り付けられている。(デュワー内部拡大図)

この銅片は10x15x60mm^3の大きさであり、コールドヘッドを挟むようになっている。
また銅片には抵抗が埋め込まれていてこの抵抗に電流を流すことによってヘッドに
熱を与える。コールドヘッド、銅片は高真空(数10^-6Torr)のデュワーの中に設置され、
空気の対流による熱流入がほとんど無視できるようになっている。この銅片には
温度センサーである白金抵抗の抵抗値を読みとるための導線と抵抗に電流を流すため
の導線が付いている。この導線を伝わってくる熱流入はほとんど無視できる。
コールドヘッドと銅片の間には窒化アルミを混ぜたグリスが、銅片と抵抗の間には
アピエゾンが塗られている。また白金抵抗は熱伝導性のよいエポキシで銅片に接着
してある。

2.2 熱流入

 デュワー内にある銅片への熱流入には抵抗による発熱の他に数種類あるが、導線から
の伝導熱、空気の対流熱は2.1で述べたように無視できる。
 銅片への熱流入の主成分は、抵抗による発熱を除けばデュワーからの熱放射である。
この熱放射がどのくらいあるかを見積もった。
 銅片は放射率0.06のアルミでできたデュワーの壁を33x10^-4m^2の面積で見ているので
Stefan-Boltzmann方程式より銅片の温度を80Kとして熱流入量は0.035(W)と見積もられる。
正確には銅片への熱流入量は銅片の温度に依存するのでこの値はupper limitである。
またこの値は抵抗へ与えた熱の誤差(典型的には0.07W)よりも小さい。

3. 性能評価

3.1 冷却能力

 横軸に投入熱量、縦軸に最終到達温度をプロットしたのが下図である。

 この図を見ると必要とされる冷却能力、-90度(183K)で3Wの排熱ができること、を
クリアしていることが分かる。図より-90度(183K)で約5Wの排熱が可能である。しかし、
これは冷凍機の運転電圧が30V(フルパワー)の時であり、メーカーの規定値24Vより
大きい値である。この場合信頼性(寿命)が変わってくる。(もちろん下がる)
メーカー規定値24Vで冷凍機を運転した場合の冷却能力

3.2 クールダウンに要する時間

 ここでは常温時から常に1Wの熱を与え続けて冷却したときにどれだけの時間で
一定温度に到達するかを測定した。なお冷凍機は常に30Vの電圧を与えて運転している。

この図を見ると最初の20分はほとんど温度変化がないが、これは常温時に常に1Wの熱を
与えていたためにコールドヘッドが暖まっていたためコールドヘッドが冷えるまでに
これだけの時間がかかったと考えられる。
 これを見ると10x15x60mm^3の銅片を冷却するためには約40分の時間がかかることが
分かる。ただし実際の熱流入は銅片の温度に依存するので、この時間は10x15x60mm^3の
銅片と同じ熱容量を持ち冷却時に1Wの熱流入がある系での一定温度に到達するまでの
時間のupper limitを表している。
 実際の冷却時においては冷却部の温度に応じて時々刻々と熱流入量が変化する。
この効果がどれだけあるかを測定するために常温時には0W最終熱流入量が上記同様
1Wになるように抵抗への投入電圧を変えていったところ、冷却に要する時間は以下の
図のようになった。

 これを常に1Wの熱を与え続けた場合と比べるとあまり変化は見られない。つまり1W
程度の熱流入では冷却に要する時間は左右されないことが分かった。しかし、実際には
最終熱流入量は3Wほどあり、また冷却する物体もかなり大きなものになるのでどうなる
かは良く分からない。

4. まとめ

(1) ダイキン社製冷凍機は-90度で3Wの熱を排熱する能力を持つことが分かった。
    (最大電力を投入した時は-90度で約5Wの排熱能力がある)
(2) 冷却に要する時間は1Wの熱投入時に10x15x60mm^3の銅片で上限約40分である。